デス・オーバチュア
第236話「オメガアース(終末の大地)」



魔皇暗黒拳、そしてその使い手である闇皇……魔眼皇ファージアス。
クロス個人としては彼との面識はないに等しいが、人伝や書物から得た情報、何よりセレスの知識と記憶から得た情報がかなりあった。
まあ、細かい情報などなくても、ルーファスの『兄』という事実だけで、最強で最悪な存在であることは確定している。
今、クロスが戦っているのは、そんなファージアスの『娘』だった。


「まあ、本物(お父様)には遠く及ばないけど、あなたを倒すには充分な暗黒でしょうぉ〜?」
「くぅっ……」
アーススマッシャーを粉砕されて吹き飛ばされたクロスは、大地に刺さっているアースブレイドへ背中をぶつけて止まった。
「あらぁ〜? 素敵な回復力ぅ〜」
クロスのダメージとエナジーの消耗が目に見えて急速に回復していく。
「ちっ……」
全快したクロスはアースブレイドを大地から引き抜いた。
「あれぇ〜、抜いちゃうのぉ〜? あなた、剣術とかできたっけぇ〜?」
「……できないわよっ!」
勢いよく跳躍したかと思うと、セレナの視界から消失する。
「あたしも、シルヴァーナも、セレスティナもねっ!」
「ふん」
セレナがふわりと跳躍すると、一瞬前まで彼女が居た場所をアースブレイドが薙ぎ払っていた。
見事に剣の一撃を回避したセレナは、赤い光球を下に落とす。
だが、光球が地上に到達するより速く、クロスはセレナより上空に跳んでいた。
「斬っ!」
クロスは、セレナのを正中線を両断しようとアースブレイドを振り下ろす。
「うふふっ」
セレナは半身をズラし、綺麗に剣の軌道をかわした。
「素人剣術もいいところねぇ〜」
「うるさいっ!」
何度もアースブレイドが斬りつけられるが、セレナは最小限の動きで華麗に優雅に回避し続ける。
「刃物って言うのはねぇ〜」
セレナの右手が赤く発光した。
「つっ……」
「こうやって使うのよぉ〜」
目にも止まらぬ速さでクロスの横を駆け抜けたセレナの右手に、妖しげな赤い光刃の大鎌が握られている。
「えっ!?」
クロスは何が起きたのか理解できない表情で、体中から鮮血を噴き出し、大地へと墜落していった。



「……かはぁ……ぐぅぅっ……」
大地に叩きつけられたクロスは、体中を切り刻まれ、赤い血で全身を濡らしていた。
「くうっ!」
クロスがアースブレイドを大地に突き立てると、琥珀色の光が彼女を包み、全身の傷が物凄い勢いで塞がっていく。
「うふふふふふっ……」
六枚の暗黒の翼を優雅に羽ばたかせて、セレナは大地に降臨した。
「……はあっ!」
全快したクロスは、瞬時に間合いを詰めてアースブレイドを振り下ろす。
「うふふっ」
アースブレイドは空を切り、大地に叩きつけられた。
セレナの姿は、クロスの背中の向こう側に移動している。
「えっ?」
クロスの体中から再び鮮血が噴き出した。
「うふふふふっ……あなたは私と刃を合わせることもできないのよぉ〜」
アースブレイドの一撃をかわし様に、セレナがクロスの全身を切り刻んで横を駆け抜けたのである。
「……う……嘘……なんで、こんなに実力差が……ぐうっ!?」
吐血しながらも、クロスはアースブレイドを大地に突き立て、前のめりに倒れそうになる体を支えた。
そして、琥珀色の光が全身を包み、瞬時に彼女を全快させる。
「今度こ……」
「きゃはははっ!」
剣を引き抜き振り返ったクロスの横を、セレナが駆け抜けた。
三度、クロスの全身が切り刻まれ、大量の鮮血が飛び散る。
「うふふふふふふっ……」
「……あ……あなた……ぐっ……」
セレナはわざとクロスの体を切断せず、薄皮一枚残るように切っていた。
流石に、体を本当にバラバラの肉片にしてしまったら、クロスが死んでしまうかもしれないからである。
つまり、わざと殺さないように手加減し、嬲り続けているのだ。
「くううっ……」
アースブレイドの能力によって再びクロスは全快する。
「あはははっ!」
「つっ……!」
全快した瞬間、四度襲いかかるセレナから、クロスは横に跳んで逃れた。
「あらぁ〜? 流石に四回目ともなると避けるのね……でもぉ〜」
「あああっっ!?」
クロスの左手が無数の肉片となって崩れ落ちる。
「避けきれてないわよぉ〜」
「くっ……」
アースブレイドを大地に突き刺し、精気が補給されると、失われた左手がアッという間に復元した。
「あはははははっ! あなたって無限に遊べる(痛めつけられる)玩具ねぇ〜」
「…………」
いくら体力や精気を無限に補給でき、傷を瞬時に癒せるとはいえ、何度も何度も瀕死の重傷を負わされては、精神がすり減り……気が変になりそうである。
「でもぉ〜、そろそろこの玩具にも飽きてきたわねぇ〜?」
「なら、一思いに殺りなさいよ……」
「そうねぇ〜、じゃあ、あなたはどんな力で倒されたい〜?」
「……せっかくだから、見たこともないような大技で頼むわ……」
「うふふふふふふふっ、了解ぃ〜♪」
セレナは楽しげに笑うと、空高く飛び上がった。
「魔眼の力の一端……真に暗黒を極めるということがどういうことか……見せてあげるわぁ〜」
左手を眼前に持ってくると、甲に赤い瞳が開眼する。
「火、水、風、土……この暗黒の四元素を統べるには、魔眼という『器』が必要不可欠……」
セレナの左手が暗黒の炎に包まれた。
「器……資格なき者が暗黒炎に手を出すと、手痛い火傷を負うことになる……アンブレラのようにねぇ〜」
彼女の左手で黒炎が激しさを増し、荒れ狂う。
「副眼(ふくがん)一つで充分ね……」
荒れ狂う黒炎の中心で、赤い瞳が満月のように妖しく激しく光り輝いた。
「魔皇……」
黒炎に赤月の輝く左手が地上へと突きだされる。
「暗黒龍牙掌(あんこくりゅうがしょう)!!!」
セレナの黒炎の右掌から、少し前にセシアを呑み込んだ黒龍の十倍以上の超巨大な黒龍が解き放たれた。
「きゃはははははっ! 私の暗黒龍(あんこくりゅう)はとぉっても狂暴よぉ〜!」
黒龍は一直線に獲物であるクロスを目指す。
「アースゲイザァァー!」
クロスがアースブレイドを大地に突き刺すと、膨大な琥珀色の光輝(精気)が噴出し、彼女を覆い隠し、黒龍を阻む壁となった。
「あぁ〜、それが前に下から襲ってきた光ねぇ〜?」
琥珀色の雨と連携し、地上から立ち上った光柱のことである。
「でもぉ〜、そんな精気の塊、私の暗黒龍には美味しい餌に過ぎないわぁ〜」
セレナが突きだした左手を握り締めると、暗黒龍の顎が、大地の光柱を噛み砕いた。



黒龍と光柱が弾け飛び、黒炎と琥珀光が地上を埋め尽くすように荒れ狂う。
「これでお終ぁい〜、髪の毛……いいえ、細胞一つ残らず燃え尽きなさぁい〜、あはははははははははっ!」
大空に、セレナの高笑が響き渡った。
黒炎……暗黒炎に焼き尽くせないモノなど存在しない。
地上、魔界、神界……あらゆる世界の全ての物質を、精神や魂さえも跡形もなく焼き尽くす黒き魔界の炎……それが暗黒炎だ。
「神に逢ったら神を滅し、魔に逢ったら魔を滅す、故に我が前に敵は無し! 我が拳に滅せぬもの無し!」
「あらぁ〜?」
大空に浮遊するセレナのさらに上空から、詠唱か祝詞のような言葉が聞こえてくる。
「天上天下唯我独尊! 神魔滅殺!」
神魔甲の右拳だけにありとあらゆる力を集束させ、際限なく高めながら、クロスがセレナへと降下した。
「ふぅぅ〜ん」
セレナの右手の甲にも赤眼が開眼し、彼女の両手を燃え狂う黒炎が包み込む。
「魔皇暗黒炎(まおうあんこくえん)!」
黒炎の両手から、彼女の何倍もある巨大な暗黒の火球が撃ちだされた。
「大地よ、漆黒に染まれ……母として、今こそ我が子に終わりをもたらさん……」
いつもの神魔滅殺拳(右拳)に、さらに大地から取り込めるだけ取り込んだ全ての精気を集束させながら、クロスは暗黒炎(暗黒の火球)へ自ら飛び込んでいく。
「大地に終末を……オメガアース!!!」
クロスは、黒い輝きに染まった右手を暗黒炎に叩きつけた。
爆音と共に暗黒炎が四散し、クロスが飛びだしてくる。
「あららぁ〜?」
「大地と共に滅せよ!」
「あはあっ!?」
クロスの漆黒の拳は、セレナの黒炎の両手すら弾き飛ばし、彼女の胸の中心に叩き込まれた。


天から黒い流星が落ち、大地が十字に裂ける。
流星の正体はクロスとセレナだった。
クロスの拳の一撃(オメガアース)は、そのままセレナを地上へと叩きつけ、彼女を突き抜けた力と衝撃が大地に巨大な十字亀裂を生み出したのである。
「…………」
クロスだけが空へと飛翔し、セレナの姿は亀裂の中に落ちていった。
数秒後、十字の亀裂が綺麗に塞がる。
「……終わった……」
クロスは疲れ果てた表情で息を吐き出した。
一瞬、一撃に殆ど全ての精気を叩き込んだため、今のクロスにはこうやって浮遊していることすら辛い。
クロスは浮力を失い落下するように、地上へ降り立った。
「……ア……アースブレイド……」
左手に石でできた大剣を出現させるなり、大地へと突き立てる。
「はあはあ……そっか……この辺一体の精気はもう……吸い尽くしちゃったか……ごめんね、無理させて……」
大地から精気は僅かずつしか補給されず、苦しげな声でクロスは大地へと謝罪した。
「でも、あたし『達』の力であの悪が倒せて良かっ……」
『きゃはははははははははははははははははははははっ!』
クロスの呟きを掻き消すように、大地の底から狂気を孕んだ高笑が聞こえてくる。
「なっ!?」
大地から、噴火のような勢いで無数の黒い火柱が立ち登った
『あははははははははははははっ! 素敵よ、あなたぁ〜』
もっとも巨大な黒い火柱の中から、これ以上なく楽しげなセレナ・セレナーデが姿を現す。
「魔王……オッドアイか、フィノーラぐらいなら今ので倒せたんじゃない〜? うふふふふふっ……」
「そんな……嘘よ……オメガアースで倒せないなんて……」
周辺一帯の大地の精気を全て汲み上げ一撃に変えて叩き込んだのだ。
これで倒せないなど、デタラメ、化け物過ぎる。
「ふん、私を倒したかったら、最低でもこの島全ての精気でも吸い上げるのね。まあ、結構痛かったけどねぇ〜、きゃはははははははっ!」
セレナの胸部の紫布は全て消し飛んでおり、大きすぎ小さすぎ形の良い両乳が晒されていた。
「あぁ〜、本当最高だわ、あなた……ねえ、私とお友達にならない? 一緒に面白可笑しく遊びましょうぉ〜」
狂月の魔皇は、好色に満ちた眼差しをクロスに向ける。
「い……いやらしい……目で見るんじゃない……て最初に言ったでしょう……」
クロスはアースブレイドを支えにしながら、息も絶え絶えな声で答えた。
「あらぁ〜、ごめんさない〜。あなたがあまりにも魅力的だからいけないのよぉ〜」
「…………」
「お友達が嫌なら、愛人でもいいわよぉ〜? うふふふふふふふっ……」
「もっとごめんよ……あなた……そっちの趣味……?」
「んん〜? 私は性別なんてくだらないこと気にしないだけよぉ〜」
セレナは両手を眼前で交差させると、両の赤眼を開眼させる。
「うっ!?」
両手の赤眼に睨みつけられた瞬間、クロスの体の自由が完全に奪われた。
「赤眼四つがかりで、身も心も狂わせてあげようかしらぁ〜? 」
顔に二つ、手に二つ、四つの赤い瞳(満月)が妖しい輝きを放つ。
「あ……な……だ……」
クロスは体の自由を奪われ、満足に声を発することもできなかった。
「そうねぇ〜? やっぱり、殺そうかしらぁ〜? 最高に派手にぃぃっ!」
セレナの全身から爆発的に暗黒闘気が放出される。
「魔皇……」
「血の海で溺死しろっ! BLOOD END!」
天から飛来した六つの赤い閃光がセレナに直撃した。
地上が一瞬血(赤光)で埋め尽くされる。
「悪いが、その女(ディナー)は予約済みだぜっ」
血に染まる大地の上に、薄く透けるような黒のネグリジェを着た幼い吸血鬼が浮いていた。














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一言でいいので、良ければ感想お願いします。感想皆無だとこの調子で続けていいのか解らなくなりますので……。



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